Section 1
株式会社パリミキ
マーケティング部 商品開発
増井 孝安
TAKAYASU MASUI
PARIS MIKI Inc. / Product Section
私が買い物に出かけたある日のことです。洋服店の店員さんが「このシャツの生地はもともと他のブランドのものだったのですが、大量に余らせてしまったので、私たちが買い上げ新しくパターンを引いて作ったものなのですよ」と話してくれました。それを聞いて「なるほど」と思ったんです。ちょうどSDGsの取り組みや服飾にまつわる廃棄のことが世間でも話題になっていたので、弊社でも何かできないかと思ってピンときたんです。
さっそく、次の日にメガネの部材を納めてくれているキッソオの吉川社長に「使わなくて余っている部材はありませんか?」と聞きました。すると「ちょうどありますよ。リム線(メガネのレンズを囲っている枠)は結構余っているんです」と返答いただきました。「それなら…」と商品化に向けて弊社で動き出しました。
福井県鯖江市にあるクリエイトスリーは弊社のメガネを手がける製造工場です。余っているリム線について調べると、単なるデッドストックとは言い難い、とてもレベルが高い部材でした。鯖江では1ミリにも満たないすりキズがリム線に少しでも入っていたら出荷できないレベルに格下げするそうなんですね。それくらい検査基準は世界的に見ても厳しく、それゆえ鯖江は世界に名だたる産地であり続けられるのです。たとえ出荷できない部材でもレンズを保持するには機能的にまったく問題ないレベルでした。それを何とか再利用できないか社内で再度検討をしたわけです。
世界的には十分に商品として通用するリムも、鯖江基準ではデッドストックとして片付けられてしまう。これらを活用し廃棄ではなくデザインも性能もアップサイクルして販売しようというのが今回の狙いです。
本商品の製造に当たっては、現場の職人たちが通常の3倍ぐらい時間をかけて細かい傷をなくす作業をしてくれました。デッドストックをアップサイクルするという初めての試みですから、少し無理を言いましたが挑戦をしてくれて。関わった人たちが胸を張れる商品になったと思っています。
これを機に余っているほかの部材があるようなら採用してみたいですね。地球環境のことを意識しながら、今後も弊社でも企画を立て製造していきたいと考えています。
Section 2
株式会社リム精工
リム加工部
斉藤 拓海
TAKUMI SAITO
RIM SEIKO Co.,ltd. / RIM Process Manager
私たちがデッドストック(使用されない部材)と呼ぶものは、主に模様のピッチや深さが使用基準から外れてしまったものや表面にすりキズが発生してしまったもののことを指します。鯖江が掲げるメガネの品質基準は非常に厳しく、デッドストックが発生しやすい環境だったのです。産地のプライドもありますので厳しい検査は悪いことではありませんが、Aランク以外のものを引き受けてくれる企業がないのが現状です。
弊社では部材に対して徹底した品質検査を行っています。例を挙げれば製品を目視で確認する表面検査・寸法検査、ベンディング加工の仕上がりを調べる検査などです。弊社では製品ごとのばらつきをなくして、同じ形状を常に製造できるようにしているので、そこから外れたものがデッドストックとなるわけです。
品質基準が厳しくてデッドストックが増えてしまう現状は、リム線に限らず他の部材でも同じだと思います。
今回の取り組みのように、再び使用できるよう少しずつ見直した動きができるとうれしいですね。
Section 3
株式会社クリエイトスリー
常務取締役
高島 永英
NAGAHIDE TAKASHIMA
Create three Co.,Ltd. / Director Managing
デッドストックを使用しての製造は、我々には経験がないことでした。その材料を拝見するまでどれくらいのキズがあるのか分かりませんでしたから、正直とても不安ではありました。
アップサイクルの作業の中で一番気を配ったのは研磨です。金属の表面を一枚一枚手で磨く作業で、丁寧にゆっくり磨いてキズを取り除いていきます。
やってみると思った以上の仕上がりとなり、製品的に良い加工ができたと感じています。自分たちの手で材料が生まれ変わるような感触を得て、非常に感動したのを覚えています。
今回の取り組みを通じて「材料の再利用といってもいろんな形ができるんだな」と気付き、今後も取り組んでいけるという思いを持ちました。
Section 4
株式会社キッソオ
代表取締役
吉川 精一
SEIICHI YOSHIKAWA
KISSO Co.,ltd. / Representative Director
パリミキのプロダクトマネージャー・増井様からお声かけをいただいた時、弊社の倉庫にちょうどデッドストックのリム線がいっぱいあったので「これらのリム線の再利用はどうでしょう?」と申し上げました。
商品の企画が進みパリミキ様のご希望を伺ったところ相当の量が必要なことが分かり、メガネ業界で部材のつながりのあるリム精工株式会社様にも声をかけて準備いたしました。
弊社では今回リム線の手配だけではなく使用する素材も提案いたしました。モダン(耳にかかる部材)に使われている素材は、従来のアセテートという材料をさらに進化させたバイオマスプラスチックです。環境に優しい材料として開発されたもので、パリミキ様に世界で初めて採用していただきました。
アップサイクルの企画に生分解性の新素材を採用していただき、環境を意識したよい取り組みになったと思っております。世界初採用の新素材ということでメガネの規格に合うだろうかという心配もありましたが、とてもよくできた商品だと感じております。
「キズがあって使えない」「ちょっとサイズが違う」といった理由で倉庫行きになっている部材が、鯖江のメガネ職人たちの手によりよいフレームに仕上がる、ということが実証できました。
このような取り組みを通して環境を意識したメガネ作りがますます盛り上がってくれればと思っております。