第五回ロービジョン・ブラインド川柳コンクール
優秀作品および入選作品発表

最優秀賞

障害物
歩きスマホも
その一つ

  • 名前 獅子丸 様
  • 部門 見えにくさを感じている方部門(ブラインド)
  • 解説 点字ブロック上を歩いていて、歩きながらスマホを使っている人とぶつかることが有ります。これ、障害物になりますよね。
  • 講評 今年の応募作品には、「歩きスマホ」を取り上げた句が多かったのですが、この句は「歩きスマホ」は「障害物」であると明確に言い切っています。その結果、作者の強い思いが伝わってきました。この川柳コンテストの目的の一つは、見えにくさを感じている方々の日々の生活や思いをより深く理解していただくことです。多くの人が何気なくやっている「歩きスマホ」は、相手によってはとても危険な障害物になる。怖い思いをしている人がいる。そのことに早く気付いて欲しいですね。(八木 健)

見えにくさを感じている方部門賞

声かけを
してもらえた日
晴れマーク

  • 名前 カトレーヌ 様
  • 部門 見えにくさを感じている方部門(ブラインド)
  • 解説 周りからは、迷っていることがわかったのでしょう。「お手伝いしましょうか?」の声にホッとして、心が晴れやかになりました。
  • 講評 この三年、コロナ禍の影響で、人と人が触れ合う、語り合う機会が激減しました。話しかけることもためらわれるような状況と、場の空気があちこちに流れていました。人に接しないですむような販売機やレジもずいぶん増えました。しかし、機械やロボットではない、人の声は一番ほっとしますね。人の声には気持ちが乗っていますからね。ささやかなことでも気持ちの交流が嬉しいものです。外のお天気は雨でも、心の中のお天気は太陽のマークがいっぱいになりますように。(八木 健)

メディカル・トレーナー部門賞

ここまでか
点字ブロック
その先は?

  • 名前 がりぞー 様
  • 部門 メディカル・トレーナー部門(眼科スタッフ)
  • 解説 点字ブロックを辿って歩いてみると、途中から先がなくなっていたり、点字ブロックの上に路駐の車がいたりと点字ブロックを頼りに歩くには不安を感じました。
  • 講評 「点字ブロック」は、正式名称を「視覚障害者誘導用ブロック」といいます。およそ六十年前に、岡山県の三宅精一氏によって考案され、岡山県立岡山盲学校に近い国道に、世界で初めて敷設されました。今では世界中で使われるようになりましたが、日本が誇る発明の一つです。しかし、作者は点字ブロックが途中までしか設置されていないことを嘆いています。点字ブロックがもっと使いやすく整備され、そして世界中どこでも少しでも安心して歩けるようになればと願います。(八木 健)

サポーター部門賞

ロービジョン
気持ちはいつも
ハイビジョン

  • 名前 フーダ 様
  • 部門 サポーター部門(ご家族)
  • 解説 交通事故による後遺症に緑内障、白内障が併発し、極端に視野が狭くなった母ですが、いつも明るく前向きな姿を見て、ふと頭に浮かびました。
  • 講評 世界保健機関(WHO)では、良い方の眼の矯正視力で0.05未満の場合を blind、0.05以上 0.3未満を low visionと定義しています。WHOの定義では視力の基準のみですが、日本では、視野の狭さや眩しさ、二重に見えるなどの症状によって生活に支障をきたしていれば、ロービジョンと定義しているようです。この句は、お母様の物事に取り組む姿勢から発想されたとのことですが、いつも側にいる作者の優しい眼差しが感じられます。「ロービジョン」と対義語の「ハイビジョン」を使っての言葉の工夫もよかったです。(八木 健)

特別賞

君の目に
なって世界が
広がった

  • 名前 すぎうめ 様
  • 部門 サポーター部門(ご家族)
  • 解説 盲人の夫との外出。街の様子、道端の花や木々の様子、・・・足下や頭の上にも注意して、・・・夫にいろいろな事柄を伝えたいと苦心しているうちに、私自身の見える世界も広がったように思う。
  • 講評 視覚障害者のサポートを通じて見える事の大切さだけでなく、見えない見えにくい事への不安を解消するための心遣いが表現された心温まる川柳でした。これからも 見る“をサポートする企業として視覚障害者の皆様に寄り添える活動を続けて参ります。(パリミキ)

NEXT VISION賞

雨音に
耳を澄ませば
色がある

  • 名前 祥雪 様
  • 部門 サポーター部門(一般の方)
  • 解説 物には色があるように、よく聞けば、音や声にも、それぞれ色があります。
  • 講評 見えなくなり絶望感で未来の希望を失う時期がありますが、自然に身を任せることで気持ちが切り替わり感じ方や見方が変化します。
    何気ない雨音に耳を澄ませることで、気づきや発見があり、希望の光で色とりどりの自分らしい人生が開けます。
    人と人がつながり可能性は広がります。ロービジョンとなっても生き生きと活躍し、互いに社会を支え合います。
    NEXT VISIONでは、情報障害をゼロにして全ての人が活躍できる社会を目指しています。
    選考するにあたり、今年もいろんな思いが詰まった川柳を楽しませていただきました。(NEXTVISION)

日本眼科医会賞

見えぬから
よく見えるんです
優しさが

  • 名前 きなこもち 様
  • 部門 見えにくさを感じている方部門(ロービジョン)
  • 解説 不自由な生活の中だからこそ、人の優しさに触れる機会も多いのではないかと思い、詠みました。
  • 講評 視覚障害者への晴眼者のサポート運動を、日本眼科医会は推進しています。
    視覚障害者の気持ちに寄り添った関わりが大切だと考えます。
    そんな行為は視覚障害者にも伝わります。
    ともに共生する社会づくりを目指しています。(日本眼科医会)

総評

審査委員長 八木 健

 今年度は、日本眼科医会様がご後援くださることになり、「日本眼科医会賞」が新設されました。また、ご協力くださる団体も、これまでより二十以上増えました。

 俳句も川柳も、コンクールは巷に溢れていますが、コンクールの目的が明確で社会的意義の大きいものは少ないように思います。この「ロービジョン・ブラインド川柳コンクール」は、全く新しい挑戦であり、その試みが着実に理解され、多くの皆様にご協力いただいているのは、本当に有難く嬉しいことです。

 今年は、次のような言葉が作品に特に多くみられました。「歩きスマホ」「セルフレジ」「タッチパネル」。どれも機器にまつわるものです。そして、どれも人との直接的なつながりを薄弱にしてしまうものばかりです。

 便利で処理速度の速い機器が増えたことで、世の中が豊かになっているように錯覚しそうですが、逆に不便、複雑で、人に冷たい社会になっていっているような気がしてなりません。
このコンクールは、見えにくさのある方のためだけでなく、全ての人にとって心豊かで安全な社会とは何かを考えるきっかけになってくれる、きわめて貴重な存在です。

八木 健 先生 プロフィール

経歴

  • 元NHKアナウンサー
  • NHK「俳句王国」司会10年
  • 元『川柳マガジン』選者
  • 元愛媛新聞月刊誌『アクリート』川柳欄選者

現在

  • 日本農業新聞川柳欄選者
  • 月刊俳句総合誌『俳壇』選者
  • 愛媛CATV『八木健の川柳天国』主宰
  • 愛媛CATV『八木健の俳句遊遊』主宰
  • 滑稽俳句協会会長
  • 俳句美術館館長
  • 浪曲・虎造節保存会創立名誉会長

著書

  • 『八木健の川柳アート』
  • 『俳句 人生でいちばんいい句が詠める本』
  • 『滑稽俳句集』
  • 『平成の滑稽俳句』
  • 『すらすら俳句術』
  • 『教師のための俳句読本』
  • 『海外俳句入門』
  • 『こっけい俳句に咲くきりえ』他