【カオの履歴書】Vol.2 (前編)
株式会社アトラクションズ 代表取締役 西崎智成
2019.07.25
原宿や下北沢でクロージングストア、レコードショップなどを展開するアトラクションズ オーナーの西崎智成さん。
ミッドセンチュリー前後の音楽やモーターサイクル、ヴィンテージクロージングをこよなく愛する西崎さんが見立てる洋服や革製品は、いぶし銀のようにクールな佇まいなのに、どこか新鮮な輝きを放つ。西崎さんの追求するカッコよさの原点とは。前編となる今回は、ヴィンテージバイクへの深い愛情と、モーターサイクルファッションに欠かせないアイウェアへのこだわりなどについて伺った。
幼い頃から古き良き時代のアメリカ映画や音楽を見聴きしながら育ちました。長崎の実家では、両親が音楽好きで、両親ともギターを弾き、朝からエルヴィスやビートルズが家の中で流れていました。8歳上の兄は私が小学生の頃すでにロカビリーのバンドをやっていましたから、そんな環境の中で影響されないほうがおかしいでしょう(笑)。ただ、私は1950年代、1960年代の音楽をきっかけにヴィンテージファッションに興味を持つようになったんです。当時、巷ではハイテクスニーカーと呼ばれる、高機能で近未来的なモノが流行っていたのですが、私は専らブーツやコンバース派だった。中学に入る頃には、東京発信の古着ブームが押し寄せてきて、洋服好きの友人たちと毎日のように地元で人気の古着屋に入り浸ってました。そんな地元の古着屋の先輩方がヴィンテージバイクに乗っててカッコよかったんですよ。自分で店を持ちたいと思い始めたのもこの頃です。「いつか原宿にビル建ててやるぞ!」って叫んでいました(笑)。
自分が身に着けるアイテムは圧倒的に黒が多いです。黒が好きなんです。黒が一番自分に似合っていると思っています。東京に住み始めクラブでDJをしてた頃、イギリスのDJスタイルをやっていた先輩方に憧れていたんです。その先輩方曰く、イギリスではノースロンドンとサウスロンドンでファッションのスタイルが分かれていると。ノースロンドンは保守的なフィフティーズのトラッドタイプ、サウスロンドンはブラックデニムにノーロールアップでブラックで決める若干急進的なスタイルなんだと。サウスは移民が多い街だったから独特な着こなしが生まれていたと聞きました。先輩方の影響をもろに受けて全身黒のサウスロンドンのほうが断然カッコいいと思いました。黒を好むようになったのはそのせいもあります。でも、2000年代に入ってイギリスに行ったとき、そういう格好してる人なんてもう誰もいなかったです(笑)。同世代のポルトガル人にブラックデニムを履いてるやつがいて、「お前もか!」みたいに思いました。(笑)。
黒に惹かれたのはバイクの影響もあります。高校時代、先ほどもお話しした地元の古着屋でバイトさせてもらってたんですが、そこの店長がある日トライアンフを買ってきたんですよ。そのとき初めてトライアンフを見たんです。もう一目惚れですよ(笑)。そして、東京にフェイクアルファという素晴らしいアメリカンヴィンテージショップがあるんですが、そこに初めて行ったときに、その店の前にもトライアンフが3台停まってるのを見たんです。ん? なぜアメリカンヴィンテージのお店にイギリスのトライアンフがあるんだろうと。それから東京でいろんな事を調べたり、聞いたりして、詳しくなっていくうちに、50年代のアメリカでは有名人がよくトライアンフに乗っていたことを知りました。ジェームス・ディーンやマーロン・ブランドといった大映画スターや、ミュージシャンのバディ・ホリー、ジーン・ビンセントも乗っていた。成功者は皆トライアンフのファンだったんです。これは絶対トライアンフを手に入れなくちゃと思って(笑)。それで21歳のときに初めてのトライアンフを買いました。でも、全然ダメな車両をつかまされて…。それでも懲りずに、23歳で原宿にお店を出したとき、軍資金のほとんどを使って、信頼あるショップでトライアンフを買いました。
周りは呆れてましたけど、店の前にドーンと置いて満足していました(笑)。最初の2年間は苦しかったですよ。服はなかなか売れないし、お金はすぐなくなる。どんどん弱気になっちゃって。何度も店閉めようと思いました。だけどある日、すごくいいやつだけど仕事は全然続かないっていうダメな友人(笑)から、めちゃくちゃ説教されたんです。「簡単に諦めるな」って。こんなダメなやつにこんな説教されたら、やるしかないじゃないですか(笑)。それからというもの、家の中にあるありとあらゆるものを売って、運転資金にして、オリジナルウェアを作ったり、ヴィンテージアイテムを売ったりを繰り返しました。あの頃の商品は、アメリカ、イギリスの音楽やモーターサイクルのファッションが中心でしたね。自分の大好きなものを集めていただけなんですが、トライアンフのお蔭で店のコンセプトが自然と定まっていたような気がします。やっぱりトライアンフを買ってよかったんですよ(笑)。そうこうしているうちに、ある日突然、売り上げがガーンと伸びたんですから。トライアンフがいつもそばにいて、自分を導いてくれたんです。え、その友人のお蔭? それもあるかもしれません(笑)。
バイクに乗る際、サングラスは欠かせません。ヘルメットにシェードがついているタイプもありますが、自分はクラシカルな浅めのヘルメットを使うのでサングラスがいいんです。あらゆるタイプのサングラスに興味がありますが、特にサイドが吊り上がった大きめのセルフレームが好みで、そういうタイプのヴィンテージを店でも販売していました。ある日、店にふらっと澤田さんがいらっしゃって。そのときはまだ名前も存じ上げず、「ただものでないオーラの人が来たな」って思いました(笑)。革ジャン姿のそのおじさんが月2、3回買い物してくれるようになって、一緒にバイクの話なんかするようになり、あるとき、店頭のサングラスを見て「かっこいいメガネですね」っておっしゃったんです。それで、「そうなんです。いつかこうロックンロールっぽい眼鏡を自分でも作りたいんです」って言ったら、「紹介しましょうか?」って言われて。「ぜひ!」ってお願いしたら、すぐに、あるメガネ工場の職人さんを連れてきてくださったのです。
またその職人さんというのがメガネ業界では知らない人はいないと言われるくらいすご腕の人で。
ご紹介いただいた工場に小ロットで生産してもらえることになり、オリジナルのサングラスを作れるようになったんです。感激して「メガネ業界ってめちゃめちゃ優しいんですね」って話をしたら、「そりゃ、澤田さんの紹介だから」って言われて。そこでやっと、“あの澤田社長”と知りました(笑)。結局、最初に作ったこのサングラスがトータルで1,000本以上売れて、第2弾、第3弾とデザインすることに。今ではサングラスは店の人気アイテムの一つになっています。もちろんその職人さんとは今でもお付き合いしていますよ。その方でないとできないカットやデザインが多くて。その方、若い頃からデザインも営業も全部やっていた人で、こういうデザインのスクラップとかも長い時間かけて集めておられて、ずいぶん勉強させていただきました。今も眼鏡のことをもっともっと知りたくて追求し続けています。こんな気持ちになれるなんて、澤田さんのお蔭です。
私にとってアイウェアとは、ファッションにはなくてはならないアイテムです。
最初はサングラスかけたら単純に「カッコいいな」と思って使っていましたが、たくさん集めるうちに、即行で変身できるアイテムなんだって気づいたんです。メガネ一つで違う自分を演出できる。気分だって変えられる。だからデザインにこだわればこだわるほど、特別な自分を発信できるような気持ちになれるのです。小さい頃、サングラスをかけてる大人って近寄りがたくて、でもなんかいいなって思ってました。畏敬の念を抱く、という感じ。生きていると「ここぞ!」というときに踏ん張らなきゃいけない場面に出くわすものでしょう。そういうときにメガネは自分を鼓舞してくれるアイテムにもなるんじゃないですか。ちょっと熱すぎと思われるかもしれませんが(笑)、私はそんな風に思いながらアイウェアを選ぶ楽しみを味わっています。
取材・文/サイトエンジン 増田弥生
西崎さんのメイド・イン・ジャパンへのこだわりや、今後の展望に迫る後編は、7/31公開予定です。
ご来店のみのご予約も可能です
試着したい商品がお決まりでなくても
ご来店のみのご予約も可能です。
お近くの店舗を選んでご予約ください。