メガネ(眼鏡・めがね)のPARIS MIKI

【カオの履歴書】Vol.2 (後編)
株式会社アトラクションズ 代表取締役 西崎智成

2019.07.31

ヴィンテージバイクとモーターサイクルファッションへの愛着に迫ったインタビュー前編。今回の後半では、メイド・イン・ジャパンへのこだわりや、今後のビジネス展開について伺った。



独立と同時に自身のブランドを立ち上げて14年目になりますが、アイウェア、革製品も含め、オリジナルブランドを4ライン展開しています。その9割以上が日本製です。少ないロットで始めたため、請け負ってくれる先が日本のメーカーさんしかなかったんですよ。でもそれが良かった。出来上がるモノの質がどこよりもいい。職人さんの技にも目を見張ります。やっぱり日本製って素晴らしいなって心から思えるようになったんです。
私のモノの作り方は、最初はコストとか余計なことは考えずに、一番いいと思えるものを打ち立てます。そして、それをどう生み出せばいいかを考えていく。



そりゃすごく苦労しますよ。お金もかかります。でも、メーカーさんたちはすごく喜んでくれるんです。いいモノを手掛けることができるってね。そういう風にして出来上がったものが、結局ヒット商品になって、ロングランで店を支えてくれているので、自分はこのやり方を変えるつもりはありません。メイド・イン・ジャパンがいいです。自分たちがこのやり方にこだわることで、海外にも日本の良さをアピールできる。現在、中国や香港、オーストラリアなど7ヶ国にうちの商品を輸出しています。どこの国でもやっぱり日本製は良いねって言われます。嬉しいじゃないですか。微力ながら日本の産業にも貢献できているのかな、と思っています。

メガネもそうですけど、世界中のハイブランドは日本の素材を使いたがるんです。そして日本で作りたがるんです。それなのに、彼らの思いを受け止めるだけの度量が日本にはもう残っていない。日本の製造産業は衰退の一途を辿っていますから。こんなことでいいのか。何とかしなくちゃいけないっていうんで、自分にできることを探し始めています。長崎発祥の波佐見焼という陶磁器があるのですが、今年うちの製品を作ってもらいたくて組合と窯元さんを訪ねて詳しく教えてもらいました。繊細な絵付けが有名ですが、波佐見焼の特徴はとにかく割れにくいこと。強化磁器と呼ばれて江戸時代の庶民の食卓を飾っていました。驚くことに、いまだに400年以上前の製法を受け継いで作っているんですよ。もう感動しかなくて。自分たちのブランドとのコラボレーションで新しい波佐見焼を生み出そうとしているところです。そのうちに発表しますので楽しみにしていてください。

以前、香川県の直島にあるベネッセのホテル (※1)に行く機会があって、そこにあった石碑に創業者福武さん(※2)の言葉で「経済は文化の僕(しもべ)である」と刻まれているのを目にし、すごく感銘を受けました。私利私欲に走ってもゴールがない。昔の大成した人たちは私財を投げうってでも文化のために尽くしていたんです。自分もそんな人間になりたいと思いました。そういう思いでやっていたら会社も続くし、働いている社員や自分も含めて働く楽しみを実感できる。みんなでもっと楽しいことや面白いことができるんじゃないかって思っています。

※1 ベネッセハウスミュージアム。美術館とホテルが一体となった施設。
※2 現ベネッセコーポレーション創業者の福武總一郎。

モノを持たない時代って言われてますね。車なんかほしくない。家も欲しくない。そういう彼らを見て上の年代の人たちが「ジェネレーションギャップだね」なんて言うのはおかしいと思っています。だいたいにおいて、若い人が言っていることのほうが正しいんですよ。上の人たちが、若いやつはなぜついてこないんだって思ってるとしたら、それはその上の人たちに魅力がないからですよ。アパレルに人が来ないのは、アパレルに魅力がないから。ITに人が集まるのは、若い人たちにとってITがカッコいい存在だからです。私は今30代ですが、20代前半の人たちの話にも耳を傾けるようにしています。彼らは感覚もまだすごく若くて、スピード感があって、いろんなところにアンテナを張っていて、勉強になりますよ。それに彼らはすごく素直です。みんないい子ですよ。昔は怒られて伸びるって言われてましたけど、今は褒めて伸びるんですね(笑)。怒ることもそんなにないですよ。自分たちがもっとカッコよくならなくちゃいけない、楽しい大人でいなくちゃいけないんです。

最近よく「若い人たちにメッセージをお願いします」って言われるんですけど、押しつけがましいことは言いたくない。ただ、これまで経験してきた中で良かったなと思うことは、自分が「師」と呼べる人を持てたこと。いろんなジャンルで「この人が自分の師だな」って思う人を意識的に持つようにしてきたんですね。そうすると、不安や疑問が出たときに、すぐに教えてもらえるんです。怒ってくれるときもある。自分が本当に、心の底からやりたいと思えることに取り組む段では、師を持つようにするのがいいんじゃないかなって思います。仏教用語に「一水四見(いっすいしけん)」という言葉があります。見る心の違いによって様々な捉え方や考え方がある、という意味なんですが、この言葉を肝に銘じながら生活していると、相手のことが理解できたり、辛いことも乗り越えられたりするんですよ。考え方ひとつで道が開けていくってことを、若い人に伝えられたらと思います。もちろん私も、これからも恐れずにぶつかっていきますよ(笑)。

取材・文/サイトエンジン 増田弥生

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