メガネ(眼鏡・めがね)のPARIS MIKI

【カオの履歴書】Vol.4 (後編)カメラマン 竹内泰久

2019.10.31

アイウェアへのこだわりや独立するまでの経緯に迫ったインタビュー前編。後半の今回は、自分なりの撮り方を模索し新しい撮影方法に行き着くまで、また今後の展望をお聞きしました。

独立してからの3年間は、ほとんど仕事らしい仕事は入りませんでした。細々とやっていたある日、以前会社で出版した書籍の仕事が某大手ホテルに評価をされ、そこからホテルの仕事を頂きました。客室やロビー、レストラン等の撮影です。そこから系列の広告代理店から直接仕事を請け負うようになり、大きな仕事が増えていきました。社カメ時代の幅広い仕事が役に立ちました(笑)。

人との繋がりを大切にとにかくなんでも受けました。そして大手出版社のフリーエディターと知り合いうことになります。社カメ時代の仕事をみて、会社にコンタクトをとったそうです。あいにく会社は社カメに外部の仕事を許可していなく、断られたそうです。会社を辞め5年、僕はメンズファッション雑誌に戻って来ました。とても長い時間に感じました。その時、いつか必ずフリーカメラマンとして以前の会社の仕事する!って思いました。そこから、社カメ時代に得意としていた切り抜きを武器にメンズファッション雑誌で仕事をしました。1年間に数万点のプロダクトを撮りましたね。

衣類が大半でした。当時のカタログページは置き撮りが中心でした。いわゆる俯瞰撮影です。衣類を吊って撮影するなんて考えもしなかった。社カメ時代には当たり前なテクニックだったのですが、あまり知られていなかった。勤めていた会社の閉鎖的な社風が功を奏した感じですね。メンズファッション雑誌はカタログページをスッキリみせたいですから、これがうけたんですね。自分も「おっ、これだ!」って思いました。先輩のテクニックを研究して、色々見直しどんどん進化しました(笑)。衣類は吊ると重力がかかるじゃないですか。この重力が何にも勝るコンセプトなんですよ。一貫性と統一感。そして立体感と空気感。リアルな影。そのうち「吊り」なんて名称までついちゃって(笑)。

社カメ時代モード系の衣類を撮影していたことはとても役立ちました。カタログページは1ページに12点のレイアウトだとすると、12点で1つの作品なんですよ。1点でもダメだったら、その1ページ全部ダメって(笑)。最初にメンズファッション雑誌のきっかけを下さったエディターさんとスタイリストさんがとてもストイックな人達で…。仕事に対する姿勢、影響を受けました。切り抜きカメラマンとして東雲でしょうかね?(笑)

雑誌の仕事で多忙な毎日を過ごすなかで、少しずつ「いつまで続くのか」と思い始めました。ネガティブな意味でも、ポジティブな意味でもですね。独立してから7,8年目、いろんなファッション誌とご縁ができ、毎日気が遠くなるまで撮影しました。朝から晩までぶっ通しで撮影した後、0時前に「もう一企画やって!」とか(笑)。延々と、毎日気が遠くなるまで撮影しました。42、43歳の頃でしょうか。いくら撮っても終わりがなくて。有難い事なのに、何か毎日モヤモヤして。それで、一旦リセットしたいと思ったんです。「本当にこれは俺がやる仕事なのかな」って思いながら仕事をするのが辛くなりました。

デジタル化の波に圧され、まず最初に「切り抜き」がのまれました。「吊り」も粗悪なものが蔓延し始め、それを見極めるスキルもない。再び「置き撮り」の時代が訪れて、カオス状態。「吊り」は躍動感がないとか…(笑)。愛して止まないフィルムを取り上げられたのも自分には大きかった。そんな煮え切らない気持ちで仕事をすれば、自ずと仕事を減らすことになるわけで…。本当に恵まれていたのに気が付かない。むしろ、仕事が減るのが気持ち良いくらい…。病んでました。

「自分の写真ってなんだろう?」「自分は何がしたい?」そう考えたとき「この問題は自分のなかにある」って、気が付いたんですね。自分がやりたい事を伝える努力を怠っていたんですね。「切り抜き」に没頭するあまり、「自分の写真」がわからず個性が埋没したまま長い時間を過ごしてきました。
「こういう写真か撮りたい」って気が付いたとき、「残せる仕事をやりたい」って思うようになりました。「残る仕事」は沢山ありますが「残せる仕事」はそうはありません。「探さなくっちゃ…」。
「残せる仕事」って自分自身が「納得出来る仕事なのか?」って事なんです。自分の表現に共感して下さるひとと仕事がしたいんです。

今は「撮りたい写真」で大好きなアメカジで仕事してます。アメカジは日本の文化で、メイドインジャパンへのこだわりかが見えます。工場さん、職人さんのこだわり。伝えたいと思って撮影してます。もちろん「切り抜き」でも仕事してます。資料本の撮影です。「切り抜き」の仕事は背景はありません。輪郭の内側で勝負する。でも、個性は出るんです。資料本の仕事ではデザイナーさんが伝えたかった事をブランドを知らない世代に伝えたい。そんな使命感を持って仕事したいんです。この歳にして「カメラマンとしてスタートしたんだな。」って…。遅いですよね。本当に。

写真もデジタルカメになってすべての人がカメラマン。どれだけ被写体に魅了されているか?って気持ちの時代ですね。僕がSNS を介して目にする印象深い写真、動画の大半はアマチュアによるものです。すべてのひとが伝えたいことを伝えたいかたちで表現できる時代、プロのカメラマンはどうしていくべきかってことを考えることがあります。デジタル化による手法はまだ始まったばかり、可能性は無限。しかし削ぎ落すことも必要。僕にはアナログな手法は最大の武器なんです。身を持って覚えたことは役にたちます。
SNSですべての人が楽に情報を発信できますよね。カメラマンとしてクライアントへのアプローチも昔とは全く異なる。でも、逆にプロとしてはやらなくていい仕事をやらない勇気を持たないといけないな。ってことも痛感しています。「逆SEO対策」と言いますか?(笑)これまでやってきた仕事を思い返して認識が甘かったて思うこと多大にあります。今の時代プロは本当に考えて仕事をしないと。
話しはもどりますが、アマチュアから学ぶことがとても多いんです。デジカメの時代でも撮るのはひとということ。最終的には気持ちなんですよね。どれだけ被写体に魅了されているか。大切ですよね。原点に帰りますよ。
自分は「切り抜き」カメラマンだって事。今は誇りを持って言えますね。後ろ向きのようで、強烈に前向きの話しです(笑)。

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